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どうでもいい話をする

  • 執筆者の写真: Chisato Mitobe
    Chisato Mitobe
  • 2017年8月6日
  • 読了時間: 2分

世の中には0を+1にする嘘と−1を0にする嘘と−2を−1にする嘘とがあって、この三つに別々の名が与えられているかというとそうでもないので、話は少し回りくどくなる。

審神者は二つ目の嘘を吐く。

初期の頃こそ長谷部の前でも品行方正な主としての振舞いだけを見せ、立ち入った話は何一つしなかったのだが、次第に自分の本音を少しずつ(それは全体のスケールで見た場合の話であり、イベントとして見ればごく低頻度に起こる莫大な量である)吐露するようになる。

言わなくて良いことや言わない方が良いことを押し隠し、自分だけで抱え込もうとしてニュートラルな人間を演じている。

押し隠しているものは勿論自身の嗜好に関わるものがほとんどで、そうして必死に隠したところで普通の人間になれる訳でもないのだが。

長谷部は一つ目の嘘を吐く。

彼は嘘を吐くのが本当に下手で、それは元来嘘を吐くような性格ではないことも災いしているのだが、審神者に仕えるうちに見様見真似で覚えた〝主の為〟のスキルでしかない。

彼は主の為にと懸命に嘘を吐き、手間を取らせないように、余計なことで懸念を増やさないように、そういう思いで利己的かつ利他的な嘘を吐こうとする。

例えば怪我をしてもしてないと言ってみたり、与えられた菓子が好みでなかったとしても美味しいですと言ってみたり。

何故そんなことをするようになったのかと言えば、審神者が精神的な苦痛を彼へ漏らすようになったことが契機であることは疑いようもない。

二人の〝嘘を吐く〟あれこれをグラフにすれば其処には負の相関が見て取れて、ところが稀に外れ値が存在することにふと気付く。初めの頃は審神者が嘘を吐き、後になるほど長谷部が嘘を吐くようになる。

審神者が吐く三つ目の嘘である。

普通の人間として生きられず、さりとてそんな自分を受け容れることもできず、審神者はひたすらに嘘を吐き続ける。

人目に付かないよう押し隠したところでマイナスはマイナスのまま、解消しきれない澱みは蓄積し続けていく。苛まれる審神者をどうにかしたいと長谷部は拙い嘘を重ね、時には事態を悪化させてしまう。

つまり審神者が明かす本音は本心ではなく、一人暗いところから長谷部を見ているようなものなのですが。

 
 
 

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