Sausage Factory
日記
七月二十日
何となく日記を付けてみることにした。
適当に買ってきたノートにこれを書いている。夏休みの宿題を思い出す。
七月二十一日
煙草が切れたので買いに行ったら売り切れだと言われた。
俺以外に買う者もいない、期間限定品でもないものが売り切れるなんてあり得るか?
他の銘柄も扱いがない。仕方ないので俺は大人しく本丸へ帰って来た。
七月二十三日
書くことがない。
七月二十五日
煙草だけでなく食料品まで姿を消し始めた。
木偶人形みたいな店員共に尋ねても分からないと答えるばかりだ。
幸い野菜は畑から収穫できるが、それ以外はどうしようもない。
男士達は食べなくても支障ないからと言って俺へ食料を回すようになった。
七月二十六日
米がちょうど切れる頃だった。運が悪い。
定期で注文してあった分は当然届かなかった。
七月二十七日
誰がやったのか知らないが、大豆が植えてあったのは不幸中の幸いだった。
万屋なんかへのアクセスはエラーが頻発するようになり、種を買いに行くことも今ではままならなかった。
器用な連中が大豆を加工してはあれこれと作ってくれている。
七月三十日
腹が減る。
八月三日
[判読不能]
八月十日
俺の栄養不足が見過ごせないレベルになってきたと話しているのを聞いた。
穀物や肉をほとんど摂取できていないのが不味いのだろう。
馬を潰しませんかと長谷部が上申してきた。
戦の道具を、か。
八月十一日
久しぶりの肉。美味かった。
少しずつだが皆で食べた。
八月十五日
馬の頭数にも限りがある。それに貴重だ。
庭に飛んで来た名前も知らないような鳥。
池の鯉。
次の日にはまた同じ数だけが採れた。
八月十七日
醤油が欲しい。
八月十八日
ここから外へのアクセスは完全に不可能となったようだった。
当然出陣はできない。どうせエラー頻発の辺りからしていなかったが。
政府は変わらず〝お知らせ〟とやらを送り続けてきていたが、俺が送った百通ほどの問い合わせへの返事は一向に届かなかった。
それ以外のネットワークには繋がらなかった。
八月十九日
八つ当たりで長谷部を殴った。
悪いことをした
八月二十一日
夕食に肉が出た。[著しい筆跡の乱れ]
八月二十二日
俺[判読不能]
八月二十四日
俺は付喪神の顕現システムや本丸の構成システム、それに過去へ遡行するためのプロトコルなんてものにはからきし詳しくない。
それでも長谷部や皆と状況から推測されるままにあれこれと意見を出し合い、一つの結論を得た。
俺は情けないことに[インクの染み]泣いてしまった。長谷部が背中を撫でてくれた。
八月二十五日
長谷部、俺はどうしたらいい
八月二十六日
おそらく世界は[判読不能]かけている。世界から仮想的に隔離されたこの空間は難を逃れたのだろう。
俺は一生ここから出られない。[判読不能]かどうかも分からない。
俺だけではないんだろう。審神者なんてものをやっていた奴等は皆
俺は長谷部を呼んで抱いた。虚しいだけだった。
[判読不能]
八月二十七日
門の先の空っぽな光景が忘れられない。
不安になると長谷部を呼んだ。何度も交わった。
煙草が欲しい。
八月二十八日
[判読不能]してくれと言った。
長谷部はどこにかくし持っていたのか、タバコを一箱持ってきてさし出した。
吸った。うまかった。
長谷部、ゆるしてくれ。
(以下数行に渡り〝長谷部〟に対し許しを乞う文章)
八月三十日
昨日殺した。
八月三十一日
俺達は過去だけを見過ぎたんだ。
長谷部。